【発表テーマ】SILS-TEP with tumescent local anesthesia(2016.10.27-29)
無床クリニックにおける日帰りSILS-TEP法の治療成績を発表しました。抄録には開院から2016年7月までとなっていますが、2016年9月末まで1年5ヶ月のデータです。
突拍子もないスライドですが
これが最初に私が、SILS-TEPで開業したい!
と言った時に、同門の先輩から言われた言葉です。
それまでの鼠径ヘルニアの日帰り手術クリニックの主な術式はクーゲル法やダイレクトクーゲル法をはじめとした、鼠径部切開法でした。
なぜ、日帰り手術クリニックで腹腔鏡下手術が行われてこなかったのか?
理由としては、
1)全身麻酔下での腹腔鏡下手術が、果たしてクリニックレベルの施設で対応可能なのかという疑問点と、
2)腹腔鏡下手術を日帰り手術クリニックで提供する際、安全面も含め患者ニーズがあるのかという疑問点が大きいと考えます。
まずクリニックで出来るのか?
この指摘には、気腹を要する全身麻酔下の手術を、入院無しの日帰り手術で行うのは不安がある。
そして、日本内視鏡外科学会JSESのアンケート調査で術後再発率が1%以下からTEPで4.9%と急増しているのにクリニックで提供するのはリスクが大きいという思いがあると思います。
しかし一方クリニックであるからこそのメリットもあります。
最も大きいメリットは、同一スタッフで全手術を行う点が上げられます。
手技、術野の共有はもちろん、想定外のケースへもスムーズな対応が可能になっています。
一般病院では、鼠径ヘルニアの手術をコメディカルスタッフも含め、同一チームで携わるケースは稀だと思います。
手術そのものの検討として開院から1年5ヶ月の間に行った、378例について手術時間、術後合併症、術後疼痛を検討しました。
最初に術式です。
SILS-TEP法が361例、Lichtenstein法が17例でした。
2015年に施行した133症例を無作為に膨潤麻酔併用群、非併用群に振り分け、術後疼痛について比較検討しました。
2015年末の集計で疼痛軽減効果ありと判断し、2016年からは全例に膨潤麻酔を併用しています。結果、膨潤麻酔併用群が316例(83.6%)、非併用群が62例(16.4%)となっています。
術式別の平均手術時間です。
SILS-TEP法全体では57.8分(32-154分)、Lichtenstein法全体では97.9分(24-218分)でした。
Lichtenstein法の手術時間が長いのは、SILS-TEP法からの移行例も含むためです。
SILS-TEP法の片側例における、JHS分類別の平均手術時間です。
間接(外)鼠径ヘルニアで58.9分(35-154分)、直接(内)鼠径ヘルニアで48.4分(32-92分)、大腿ヘルニアで55.9分(37-80分)、併存型で60.6分(45-80分)、特殊型で62.5分(46-76分)でした。
術後合併症は漿液腫が18例、その他が1例で全体で5.1%となっています。
当院では術翌日に全手術患者から術後疼痛をスケール(1:痛くない 2:少し痛い 3:痛い 4:相当痛い 5:想像を絶するほど痛い)に基づき自己評価してもらい聴取しています。
スケール1、スケール2が78.5%でした。
術後1週間の坐薬(頓用)使用量も聴取しました。79.6%が使用しない、または術当日、翌日に3個までの使用で疼痛コントロールが可能でした。
以上をまとめます。
SILS-TEP法の手術時間は、2015年の平均が60.8分(39-153分)である。2016年の平均は53.2分(32-154分)とスコピストの習熟度と連携の成熟に従い短縮しています。
術後合併症に関しては追跡期間が短いため今後のデータ収集が必要ですが、開院1年5ヶ月で5.1%と、現在のところまずまずです。
術翌日の痛み評価では患者個人の主観になりますが、78.5%の患者が少し痛い程度までにコントロールされています。
術後1週間の坐薬(頓用)使用量では、79.6%が使用しない、または術当日、翌日に3個までの使用で疼痛コントロールが可能でした。
以上より、1)全身麻酔下での腹腔鏡下手術が、果たしてクリニックレベルの施設で対応可能なのかという疑問点に関して、十分対応可能と考えています。
次に2つめの疑問点、腹腔鏡下手術を日帰り手術クリニックで提供する際、安全面も含め患者ニーズがあるのかという点ですが、
術後アンケートより、生産年齢人口層の患者は予想通り、欠勤期間が短くて済む点をメリットと捉えていました。
一方老年人口層の患者は、入院による環境変化や、配偶者の介護といった日常生活のリズムを変える必要が無い事をメリットと捉えていました。
このニーズに応える項目として、社会復帰までの日数、平均術後在院時間を検討しました。
社会復帰までの日数は、全例7日以内に復帰し、78.3%が術後3日目までに復帰していました。
平均術後在院時間は157.4分(20-480分)でした。
術前日の夜、緊張から寝不足のために熟睡される方も結構いらっしゃったためにこのような平均時間です。実際はもっと早い印象です。
社会復帰に関して、術翌日までに1/4強が、翌々日までに78.9%の患者が社会復帰を果たしています。
また、術後は回復室で経過観察を行い、帰宅基準をクリアすれば退院可としています。平均在院時間は157.4分で、退院時は全例が独歩で帰宅し、日帰り率は100%です。
腹腔鏡下手術を日帰り手術クリニックで提供する際、安全面も含め患者ニーズがあるのかという点ですが、術後経過観察を確実に行い、安全面にも配慮した日帰り手術を提供することで、100%の日帰り率を確保できています。
また、術後の日常生活のニーズにも応えることができていると考えると、患者ニーズを満たすことは十分可能です。
つまり、日帰り手術で腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術を提供するベネフィットの視点でみると、高齢化社会を迎える社会に、ニーズは十分存在すると考えます。
無床クリニックにおける、鼠径ヘルニアの日帰り手術に腹腔鏡下手術を導入して1年5ヶ月、378例の短期成績を報告しました。
クリニックのメリットを十分生かし、低侵襲性と安全性がより一層担保される工夫を日々続けることで、患者や社会のニーズを満たす医療を無床クリニックでも提供できると考えます。
SILS-TEP法は、操作の困難性やラーニングカーブの長さから、未だ普及していない術式ですが、チームとして習熟することで、無床日帰り手術クリニックでも十分ベネフィットを提供できる術式であると考えます。
参考動画
【注意】この動画は手術動画です。気分を害する可能性がある方は視聴をお控えください。