【発表テーマ】無床クリニックにおける鼠径ヘルニア日帰り手術の工夫(2015.11.14)
鼠径ヘルニアの治療に関しての記述は古く古代エジプトの遺跡にも残っていると言われていますが、現在の治療の歴史は1885年のバッシーニによる手術がスタートと言われています。古典的には腹壁脆弱部を直接縫合閉鎖するものでした。
その後、テンションフリーの重要性からメッシュを用いた術式が主流となっています。
1991年から鼠径ヘルニアにも腹腔鏡を用いた術式が登場しました。
この方法には2種類あります。同じようにカメラを使いますが全く違います。
上段がTAPP法といい腹腔内からアプローチします。
下段がTEP法と言います。これは腹腔内には入りません。腹膜前腔を開放し、操作します。
鼠径部の局所解剖です。黄色く囲んでいる部分は1965年フルショウが提唱したMPOという概念です。
このMPOとは内側三角、外側三角、大腿三角を合わせた部位で、ここから鼠径部ヘルニアは発生すると発表しました。
この図は腹膜前腔を内側から見た図です。腹腔鏡下での視野になります。フルショウの言うMPOはこの図では黄色の楕円となります。
現在では解剖学的見地から、鼠径部ヘルニアはHesselbach三角と内鼠径輪、大腿輪から発生することが分かっています。
Hesselbach三角がMPOの概念の内側三角、内鼠径輪が外側三角、大腿輪が大腿三角に一致します。
つまりフルショウが提唱した概念は正しく、現在ではこのMPOを覆う事が鼠径部ヘルニア手術の胆であると認識されています。
ヘルニア手術は大きく分けて初期から行われた従来法、その欠点をメッシュで改善した前方切開メッシュ法、腹腔鏡を用いた腹腔鏡法の3つに分類できます。
各グループの再発率は種々の報告はありますが、腹腔鏡法は0.2%程度と言われています。
これを受け、2009年ヨーロッパヘルニア学会ガイドラインに成人鼠径ヘルニアに勧められる手術は、腹腔鏡下ヘルニア根治術とリヒテンシュタイン法であると明言されました。
リヒテンシュタイン法は前方切開メッシュ法の一つですが、手術操作で生体本来の層構造を破壊しない方法であるため、有用と言われています。
ガイドラインで推奨された腹腔鏡下法の切開部位です。
TAPP法、TEP法ともに3ヶ所のポートを挿入し手術を行います。
臍下からカメラを挿入します。TAPP法では左右に、TEP法では正中に2か所ポートを挿入し、操作します。
当院はより侵襲を少なくすることで、日帰り手術が可能になるよう、従来のTEP法をもう一段階進化させた単孔式腹腔鏡下ヘルニア根治術SILS-TEP法を第一選択として提供しています。
従来のTEP法と違い、臍の中を約2cm切開するのみの単孔式です。
図の点線の範囲の腹膜前腔を剥離し広い操作腔を作ります。全てのヘルニア発生部位を広くメッシュで覆い手術完了です。
次に患者目線で考えてみました。患者にとって、最も不安で術後の満足度を左右する最大の要因は痛みです。
そこでSILS-TEP法に膨潤麻酔を併用することで術後疼痛の軽減を図りました。
術翌日の痛みをスケールに基づいて自己判断していただきました。 膨潤麻酔併用群の方が『痛みなし』の割合が高く、痛みなし、少し痛いで、併用なし群の62.2%に比べ、83%となり、術後早期の疼痛軽減に効果があると考えます。
術後1週間目の受診時に頓用で使用した坐薬の総量を聞き取りました。
膨潤麻酔群では49%が使用していないもしくは翌日に1個使用したのみでした。
このことから疼痛軽減効果が持続する傾向にあると考えました。
膨潤麻酔の内訳ですが生食180mlにE入りキシロカイン10mlと0.25%マーカイン10mlを混ぜトータル200mlとし、スライドのごとく使用します。
参考動画
膨潤麻酔の内訳ですが生食180mlにE入りキシロカイン10mlと0.25%マーカイン10mlを混ぜトータル200mlとし、動画のごとく使用します。
【注意】この動画は手術動画です。気分を害する可能性がある方は視聴をお控えください。